『屋根裏のラジャー』は、なぜ日本アニメ映画史上最悪の興行失敗作になったのか
2023年12月15日公開のスタジオポノックのアニメーション映画『屋根裏のラジャー』が、12月26日時点で日本アニメ史上最悪の興行失敗作になるのが確実となりましたので、その解説です。これからシネコンでは1日1回上映となるようですので、映画館で観たい方は急いで観て下さい。
『屋根裏のラジャー』は2023年12月15日に全国約350館規模で公開されました。IMAX(12ch)・ドルビーシネマ(ドルビービション)・ドルビーアトモス・dts:X・7.1ch・5.1chという日本のアニメーション映画では珍しく全てのスペックを網羅し、公開初週の上映回数の割り当ては、同日公開のディズニーの「ウィッシュ」に次ぐ回数で、公開初週の興行成績2位、興行収入20億円以上を期待されて公開されたのですが、日本アニメ映画史上最悪の興行失敗作となってしまいました。
『屋根裏のラジャー』よりも興行成績が悪いアニメーション映画はありますが、公開館数・上映回数を考慮すると日本アニメ映画史上最悪の興行失敗作と言っても問題無いと思います。
1.同時期公開のアニメーション映画が多く鑑賞対象にならなかった
失敗を分析すると、要因の1位に来るのはアニメーション映画の公開本数の多さです。
東宝配給作品では『君たちはどう生きるか』(7月14日公開)、映画『窓ぎわのトットちゃん』(12月8日公開)、本作『屋根裏のラジャー』、翌週12月22日には『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が公開されるという、東宝配給だけで4本のアニメ映画が同時公開という供給過多な状態。
更にディズニー配給の『ウィッシュ』(12月15日公開)、東和ピクチャーズ配給『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』(12月15日公開)、東映配給の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(11月17日公開)、アスミックエース配給『劇場版 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(12月8日公開)『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』(11月3日公開)、アニプレックス配給『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』(12月1日公開)、バンダイナムコフィルムワークス配給『宇宙戦艦ヤマト 劇場版 4Kリマスター』(12月8日公開)という合計11作品が公開されているという、まさにアニメーション映画祭りと言っても過言では無い状態です。
映画鑑賞料金2000円時代に、これだけのアニメーション映画が公開されても普通の人が見るのは1本か2本でしょう。
そうなると東宝が1番力を入れて宣伝していた『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』、ディズニーが力を入れて宣伝していた『ウィッシュ』の2本を見て、あとはお金が無いから配信されるまで待てば良いかという状態で『屋根裏のラジャー』は選択肢に入りませんでした。
2.東宝が宣伝していなかった
原因の2つめとして上げられるのが東宝が宣伝していなかったという点です。
『屋根裏のラジャー』の製作委員会に東宝が入っているのですが、全く東宝が宣伝していませんでした。どこのシネコンへ行っても東宝アニメーション作品である『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』の予告が上映され、それにプラスしてディズニーの『ウィッシュ』の予告は上映されるのですが、『屋根裏のラジャー』の予告はほとんど上映されませんでした。『屋根裏のラジャー』の宣伝は制作幹事である日本テレビの金曜ロードショーでスタジオポノックの「メアリと魔女の花」の放映、特別協賛のKDDI「auスマートパスプレミアム」、マクドナルドのハッピーセットの絵本というというのが宣伝の柱で、観て欲しい観客には宣伝が到達していなかったと思います。『君たちはどう生きるか』を除くスタジオジブリ作品は、シネコンへ映画鑑賞に行けば飽きるほど予告編を見せられる状態だったのに、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』に偏った宣伝だったのが失敗の要因だと思います。
3.そもそも映画が面白くなかった
「それを言っちゃあ、おしまいよ」ということで、そもそも映画が面白くなかったというのが3番目の原因です。
この内容を絶賛しているのが、もの凄く狭い範囲で内容が刺さった人か相当なアニメーションファン(ジブリファン)しかいない状態で、あとは画面の綺麗さを褒めて内容は褒めていないという状態でした。
原作『ぼくが消えないうちに』(ポプラ社のサイトで36ページ試し読みができます)は、小説ですが、限り無く絵本に近いレイアウトで制作されていて電子書籍版はテキストデータでは無く、紙書籍をそのまま表示する内容になっています。ビジュアルノベルみたいな原作を、改変してアニメーション映画化する必要があったのでしょうか。
(追記)
2024年1月14日までの動員は18万393人、興行収入は2億3814万7200円。1月18日でほとんどの上映館で上映終了。最終興行収入は3億円未満と なります。製作費を回収できない大赤字でスタジオポノックの経営が心配されていましたが、1月26日にNetflixとの提携(Netflix、最新作を含むスタジオポノックのアニメーション映画作品の世界ストリーミング配信権を獲得 -- 映画『屋根裏のラジャー』の世界配信決定)が発表され、事実上Netflixに救済される形となりました。スタジオポノックの次回作は、おそらく「IN ASSOCIATION WITH NETFLIX」作品となるため、Netflixで観れるなら、わざわざ映画館で観なくても良いよねとなるのではないでしょうか。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 『モアナと伝説の海2』画面がユニビジウム(2.00:1)サイズでシネスコスクリーンでは額縁上映の可能性あり(2024.08.12)
- 2024年7月期の映画興行収入も約24%減少の前年比76%(2024.08.10)
- 2024年上半期の映画興行収入は約12%減少の前年比88.1%(2024.07.11)
- 2024年の映画興行収入は前年度割れ確実な情勢に(2024.06.16)
- A FILM BY CHRISTOPHER NOLAN 『OPPENHEIMER』(2024.04.01)